「君なら大丈夫やから」の夜

(中央区 30代 男性)

大学の卒業を控えた春、中央区の馴染みの居酒屋で、友人たちと最後の飲み会を開きました。何度も通ったその店は、特別に飾らなくても落ち着ける場所でした。暖簾をくぐると、いつもの時間が始まる。そんな安心感のある店です。

その日も料理を囲みながら、いつもと変わらない話をしていました。ゼミの課題の愚痴や、就職先の不安、他愛のない冗談。笑い声は絶えませんでしたが、「もうすぐ終わる」という思いが、胸の奥で静かに揺れていました。長い時間を共に過ごした仲間と、これからは別々の道を歩いていく。その現実が、遅れて込み上げてきたのです。

気づけば、私は涙をこぼしていました。自分でも驚くほど、寂しさがあふれてきました。そんな私に、ゼミの友人が温かいおしぼりを差し出し、小さなキーホルダーを手のひらにのせてくれました。

「君なら大丈夫やから」

その言葉は、励まそうとする力みもなく、ただ自然に置かれました。だからこそ、まっすぐ胸に届いたのだと思います。あの夜、受け取ったのはお守りのようなキーホルダーだけではありません。自分を信じていいのだという、小さな確信でした。

春になると、あの居酒屋のざわめきと、友人の笑顔がふいに思い出されます。別れは寂しいものですが、その寂しさの中にこそ確かな絆があったのだと、今なら静かに言えます。


<編集追記>
しまいきれない春の想い出は、ポケットの中のお守りのように、これからもそっと背中を押してくれます。
chevron_left 前のページに戻る