知らない駅のぬくもり

(東成区 30代 男性)

帰りが遅くなった冬の日のことです。
仕事帰りの電車で、疲れがたまっていたのか、座った途端にうとうとしてしまいました。はっと目を覚ましたときには、車内はほとんど人がいませんでした。窓の外を見ると、見覚えのない景色が広がっていました。

終点でした。

慌ててホームに降りると、冷たい空気が一気に頬に刺さりました。知らない駅名の看板を見上げながら、どうやって帰ろうかと頭の中で路線図を思い浮かべます。人気の少ないホームは思った以上に静かで、足元からじわじわと不安が広がっていきました。

そのとき、清掃員の方が声をかけてくれました。

「大丈夫? 寒いでしょ」

事情を話すと、何も言わず自販機の前まで歩き、温かいお茶を一本買って手渡してくれました。

「これ飲んで、次の電車待ちな」と、優しい口調でした。

湯気の立つ缶を両手で包んだ瞬間、冷えきっていた指先がじんわりと温まりました。それ以上に、胸の奥があたたかくなりました。見知らぬ場所で、見知らぬ人が気にかけてくれる。その事実が、どれほど心強かったことか。

たった一本のお茶でした。でも、あの夜のことは今もはっきり覚えています。寒さよりも、不安よりも、優しさのほうが強く残っています。


<編集追記>
しまいきれない想い出は、季節を越えてふと胸をあたためてくれるのかもしれません。あの日の湯気のぬくもりは、今も心の中で消えずにいるのだと思います。
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