缶コーヒーのぬくもり

(東淀川区 30代 男性)

仕事を始めたばかりの頃の春のことです。
慣れない業務でミスをしてしまい、上司に強く注意されました。頭では理解しているのに、うまくできない自分が情けなくて、返事をしながらも視界が少しにじんでいました。

そのままトイレに駆け込み、個室の中でこっそり泣きました。社会人になったのだから、これくらいで落ち込んではいけない。
そう思うほど、涙は止まらなくなりました。戻らなければいけないのに、しばらく動けませんでした。

ようやく廊下に出ると、同じ部署の先輩が立っていました。何も聞かず、ただ温かい缶コーヒーを差し出してくれました。

「最初はみんな同じだから」

それだけ言って、すぐに去っていきました。事情を詮索することもなく、慰めの言葉を重ねることもありませんでした。
その“深く踏み込まない優しさ”が、胸に沁みました。

見透かされているようで恥ずかしいのに、ちゃんと見てくれていることが分かる。その距離感が、何よりありがたかったのです。
励ましの言葉をたくさんもらうよりも、「一人じゃない」と感じられたことのほうが、ずっと救いでした。

あの春の缶コーヒーの温もりは、今もはっきり覚えています。苦さの中に、少しだけ甘さが残る味でした。


<編集追記>
しまいきれない春の想い出は、あの缶コーヒーのぬくもりと一緒に残っているのかもしれません。サブクロに預けるのは荷物でも、あの日差し出された気遣いは、これからも胸の奥で冷めずにいてくれるのでしょうね。
chevron_left 前のページに戻る