半分こする相手

(平野区 30代 女性)

彼とよく行っていたスーパーに、一人で立ち寄った日のことです。
特別な用事があったわけではなく、仕事帰りにいつものように入っただけでした。店内の配置も、流れている音楽も変わっていません。それなのに、隣にいたはずの人がいないだけで、景色が少し広く感じられました。

お菓子売り場で、ふと手が伸びました。いつも二人で半分こしていたチョコレートです。迷いもなく二つカゴに入れそうになり、はっとして手を止めました。もう半分こする相手はいないのに、体が先に動いていたのです。

その瞬間、少しだけ恥ずかしくなりました。誰も見ていないのに、急に一人でいる自分を意識してしまいました。そして同時に、こういう小さな習慣こそが、いちばん長く残るのだと気づいたのです。

大きな思い出や特別な出来事よりも、日々の繰り返しのほうが、深く体に染み込んでいるのかもしれません。レジに並びながら、あのとき笑いながらお菓子を選んだ時間を思い出しました。何気ないやり取りが、こんなにも静かに心に残るものなのだと、少しだけ切なくなりました。

結局、その日は一つだけ買いました。袋の中で揺れるお菓子を見ながら、春という季節は、こうした小さな記憶を不意に連れてくるのだと思いました。


<編集追記>
しまいきれない春の想い出は、こうしたささやかな習慣の中に息づいているのかもしれません。サブクロに預けるのは物でも、半分こした時間までは、手放せないのかもしれませんね。
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