「ほんの気持ちやけど」
引っ越しが決まった春のことです。
荷造りに追われる毎日で、部屋の中は段ボールだらけになっていました。必要な物とそうでない物を分けながら、暮らしてきた時間を静かにたどるような気持ちで過ごしていました。
そんなある日、親しくしていた方から「これ、ほんの気持ちやけど」と、小さな包みを手渡されました。餞別の品でした。
特別高価なものではなく、日常で使えるささやかな物でした。でも、その包みの重さは、思っていたよりもずっと温かく感じられました。
「向こうでも元気でね」
その一言と一緒に渡された品は、ただの“物”ではありませんでした。ここで過ごした時間や、交わした言葉、共有した空気まで包まれているように思えました。自分が去る場所にも、確かに居場所があったのだと、あらためて実感した瞬間でした。
引っ越し当日、段ボールを積み込むトラックを見送りながら、その餞別をそっとバッグに入れました。新しい土地への期待もありましたが、不安のほうが少しだけ勝っていた時期でもありました。だからこそ、「気にかけてくれている人がいる」という事実が、静かな支えになりました。
新しい部屋に落ち着いてからも、その品を見るたびに、あの春のやわらかな光景がよみがえります。別れは寂しいものですが、誰かの思いやりがあるだけで、少し前向きになれるものなのですね。
<編集追記>
しまいきれない春の想い出は、餞別の包みの中にもそっと残っているのかもしれません。サブクロに預ける荷物のように、新しい暮らしへ運ばれたのは、きっとあの日の気持ちそのものだったのでしょうね。
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荷造りに追われる毎日で、部屋の中は段ボールだらけになっていました。必要な物とそうでない物を分けながら、暮らしてきた時間を静かにたどるような気持ちで過ごしていました。
そんなある日、親しくしていた方から「これ、ほんの気持ちやけど」と、小さな包みを手渡されました。餞別の品でした。
特別高価なものではなく、日常で使えるささやかな物でした。でも、その包みの重さは、思っていたよりもずっと温かく感じられました。
「向こうでも元気でね」
その一言と一緒に渡された品は、ただの“物”ではありませんでした。ここで過ごした時間や、交わした言葉、共有した空気まで包まれているように思えました。自分が去る場所にも、確かに居場所があったのだと、あらためて実感した瞬間でした。
引っ越し当日、段ボールを積み込むトラックを見送りながら、その餞別をそっとバッグに入れました。新しい土地への期待もありましたが、不安のほうが少しだけ勝っていた時期でもありました。だからこそ、「気にかけてくれている人がいる」という事実が、静かな支えになりました。
新しい部屋に落ち着いてからも、その品を見るたびに、あの春のやわらかな光景がよみがえります。別れは寂しいものですが、誰かの思いやりがあるだけで、少し前向きになれるものなのですね。
<編集追記>
しまいきれない春の想い出は、餞別の包みの中にもそっと残っているのかもしれません。サブクロに預ける荷物のように、新しい暮らしへ運ばれたのは、きっとあの日の気持ちそのものだったのでしょうね。