捨てられなかった座布団
大学四年の春、就職が決まり、引っ越しの準備をしていました。
段ボールを組み立て、本棚を空にし、机の上を片づけながら、この部屋で過ごした時間の長さを改めて感じていました。
押し入れを開けると、余っていた座布団が何枚も出てきました。来客用にと買ったものです。友達がよく泊まりに来ていたので、気づけば増えていました。棚の奥からは、未使用の紙コップも束になって見つかりました。飲み会のあとに買い足したまま、使いきれなかったものです。
どれも特別な品ではありません。ただの消耗品です。けれど、それを手に取った瞬間、夜中まで課題に追われた日や、くだらない話で笑い転げた時間が、鮮やかによみがえりました。終電を逃して床に雑魚寝したこともありました。
狭い部屋なのに、あの頃は不思議と窮屈に感じなかったものです。
もうここで、同じように朝まで語り合うことはないのだと思うと、座布団も紙コップも、ただの「物」ではなくなりました。
捨てようとまとめた袋を、何度も結び直しました。
別れというのは、人だけでなく、時間や場所とも向き合うことなのかもしれません。部屋が空いていくほどに、そこにあった声や笑いが、逆に濃く思い出されました。
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段ボールを組み立て、本棚を空にし、机の上を片づけながら、この部屋で過ごした時間の長さを改めて感じていました。
押し入れを開けると、余っていた座布団が何枚も出てきました。来客用にと買ったものです。友達がよく泊まりに来ていたので、気づけば増えていました。棚の奥からは、未使用の紙コップも束になって見つかりました。飲み会のあとに買い足したまま、使いきれなかったものです。
どれも特別な品ではありません。ただの消耗品です。けれど、それを手に取った瞬間、夜中まで課題に追われた日や、くだらない話で笑い転げた時間が、鮮やかによみがえりました。終電を逃して床に雑魚寝したこともありました。
狭い部屋なのに、あの頃は不思議と窮屈に感じなかったものです。
もうここで、同じように朝まで語り合うことはないのだと思うと、座布団も紙コップも、ただの「物」ではなくなりました。
捨てようとまとめた袋を、何度も結び直しました。
別れというのは、人だけでなく、時間や場所とも向き合うことなのかもしれません。部屋が空いていくほどに、そこにあった声や笑いが、逆に濃く思い出されました。