拾われた財布、拾われた気持ち
春のある日、神社へお参りに行きました。
新しい節目を迎える前で、気持ちを整えたくなったのです。境内はやわらかな日差しに包まれ、どこか静かな空気が流れていました。
祈願の札に名前と願い事を書き、深く一礼をしてから手を合わせました。自分のこれからについて、少しだけ真剣に考えていた時間でした。終わってほっと息をつき、境内を出ようとしたときです。
後ろから、「あの、財布落としてませんか?」と声をかけられました。
振り返ると、通りすがりの方が私の財布を手に立っていました。その瞬間、血の気が引くのが分かりました。祈願の札を書くときに、机の上へ置いたまま、すっかり忘れていたのです。
慌てて受け取り、何度も頭を下げました。相手は「気をつけてくださいね」と穏やかに言い、すぐに去っていきました。
名前も聞けませんでした。ただ、その背中がやけに頼もしく見えました。
財布が戻った安心感以上に、胸に残ったのは、そのさりげない優しさでした。何も言わず通り過ぎることもできたはずなのに、立ち止まり、声をかけてくれた。その行動に救われた気がしました。
神社で願ったのは、自分の努力や未来のことでした。でも、あの日いちばん心に残ったのは、人の温かさだったのかもしれません。春という季節は、新しい始まりだけでなく、こうした小さな出来事を通して、そっと心を整えてくれるのだと思います。
<編集追記>
しまいきれない春の想い出は、落とした財布と一緒に、優しさまで拾い上げてもらった日のことかもしれません。サブクロに預けるのは物でも、あの日受け取った安心感は、これからも手放さずにいたいものですね。
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新しい節目を迎える前で、気持ちを整えたくなったのです。境内はやわらかな日差しに包まれ、どこか静かな空気が流れていました。
祈願の札に名前と願い事を書き、深く一礼をしてから手を合わせました。自分のこれからについて、少しだけ真剣に考えていた時間でした。終わってほっと息をつき、境内を出ようとしたときです。
後ろから、「あの、財布落としてませんか?」と声をかけられました。
振り返ると、通りすがりの方が私の財布を手に立っていました。その瞬間、血の気が引くのが分かりました。祈願の札を書くときに、机の上へ置いたまま、すっかり忘れていたのです。
慌てて受け取り、何度も頭を下げました。相手は「気をつけてくださいね」と穏やかに言い、すぐに去っていきました。
名前も聞けませんでした。ただ、その背中がやけに頼もしく見えました。
財布が戻った安心感以上に、胸に残ったのは、そのさりげない優しさでした。何も言わず通り過ぎることもできたはずなのに、立ち止まり、声をかけてくれた。その行動に救われた気がしました。
神社で願ったのは、自分の努力や未来のことでした。でも、あの日いちばん心に残ったのは、人の温かさだったのかもしれません。春という季節は、新しい始まりだけでなく、こうした小さな出来事を通して、そっと心を整えてくれるのだと思います。
<編集追記>
しまいきれない春の想い出は、落とした財布と一緒に、優しさまで拾い上げてもらった日のことかもしれません。サブクロに預けるのは物でも、あの日受け取った安心感は、これからも手放さずにいたいものですね。